CASE STUDY

相続

母の生前に兄が母の介護をしていた時期があったのですが、その間に母の預金残高が大きく減っていることが判明しました。兄は預金残高が減ったことは知らない、母の遺産は法定相続分通りに分割すれば良いと言っていますが、兄に対して何も請求できないのでしょうか?

【ご相談者】恵庭市 40代女性(パート)

解決結果

被相続人の生前に高額な預貯金が引き出されている場合、預貯金を引き出した者に対して訴訟を提起して使途不明金の支払いを請求することができます。

被相続人の生前に、被相続人の預貯金口座から高額な引出しがなされていることがあります。
そのような場合、一般的には被相続人を世話してその財産を管理していた者が引き出したと推認されます。
高額な預金が被相続人のために支出されていればよいのですが、例えば被相続人が長年施設で暮らしており高額な出費をするような生活ではなかったという場合、財産を管理していた者が私的に流用したという疑いが強くなります。
このように、被相続人の生前に財産を管理していた者によって使途が不明な出金がなされているケースを、『使途不明金』の問題といいます。


使途不明金がある場合、まずは被相続人の口座から引き出された預金の合計額を算出します。
それから、被相続人の入院代や施設費、食費等の生活費を控除します。その際、基本的には領収証に基づいて控除する金額を算定します。
そうして控除してもなお引き出された金額が残る場合、その金額が使途不明金となります。


使途不明金のうち、各相続人は自分の相続分に相当する金額を取得する権利を有することとなります。
よって、預金を引き出した者から、他の相続人に対して、使途不明金のうち各相続人の相続分に相当する金額を支払うこととなります。
その際、他にも預貯金や不動産等の遺産がある場合には、遺産分割の協議や調停の中でそれらと清算して遺産を分割することが一般的です。
しかし、預金を引き出した者が使途不明金を認めず、清算に応じない場合には、訴訟で解決する必要があります。


訴訟で使途不明金を請求する場合、『不当利得返還請求』または『損害賠償請求』という2通りの方法があります。
どちらで請求しても基本的に差異はないのですが、次の2点だけ大きく変わることがあります。

①時効期間
時効期間について、不当利得返還請求は10年間、損害賠償請求は3年間とされています。
時効がいつから始まるのかで争いになることもありますが、仮に『口座から引き出した日』からカウントするとなると、不当利得返還請求の場合は10年前に引き出された分まで遡って請求できるのに対し、損害賠償請求の場合は3年前に引き出された分までしか遡れないこととなるため、いつまで遡って使途不明金を請求できるかが変わってきます。

②弁護士費用相当額
損害賠償請求の場合、実際に被った損害額の他に『弁護士費用相当額』として損害額の10%を請求することが認められることが多いです。これは、実際にかかった弁護士費用とは基本的に関係ありません。
他方、不当利得返還請求の場合は、このような請求は認められていません。
よって、簡単にいえば、損害賠償請求の方だと1割増しで請求できるということになります。


本件では、ご依頼者様自身で銀行から被相続人の入出金履歴を取り寄せていたので、相手方が被相続人の通帳を管理した時期からどのような出金がなされたかを精査し、その合計額を算出しました。
そして、引き出された金額から、被相続人の生活費等で当然に必要になると推測される金額を控除すると、約800万円の使途不明金があるという結論になりました。
約800万円のうちご依頼者様の相続分(2分の1)は約400万円になるため、相手方に請求する金額を約400万円としました。
また、引き出された時期が3年以上前だったため、損害賠償請求ではなく不当利得返還請求として訴訟を提起しました。
訴訟では相手方からは有効な反論や反証はなされず、判決で当方の請求がそのまま認められました。

 


【執筆者】

弁護士 佐瀬達哉

東京と大阪で弁護士として勤務した後、2008年から札幌で葛葉法律事務所を開所。
離婚、相続などの家事事件に関する解決実績多数。
相続では使途不明金や共有不動産に関する訴訟案件などにも対応。

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