CASE STUDY

相続

数年前から姉が実家で一人暮らしだった父と同居するようになり、父が他界した後も実家に居住しています。遺産分割が終わるまでの間に、姉に実家から退去してもらったり、姉から賃料を貰うことはできないのでしょうか?

【ご相談者】札幌市 40代女性(会社員)

解決結果

被相続人と同居していた相続人が被相続人の死亡後も居住を続けている場合、遺産分割が完了するまでは、他の相続人から退去請求や賃料支払請求をすることは基本的にできません。

遺産に不動産がある場合、相続人のうちの一人が被相続人の介護等で晩年に同居を始め、被相続人の死亡後も居住を続けるというケースがあります。
そのようなケースでは、他の相続人からすると「一人だけ不動産を使用できている」という不公平感が生まれ、退去や賃料の請求をしたいと考えるようになることもあります。


しかし、このような場合、居住している相続人は自己の相続分に基づいて不動産を使用収益する権利を有するため、不動産に居住し続けることも可能となります。そのため、他の相続人からの明渡請求は当然には認められず、明渡しを求める理由を主張立証しなければならないとされています(最一小判昭和41年5月19日)。
明渡しを求める理由としては、例えば建物が老朽化し倒壊の恐れがあるため至急解体する必要があるといったものが考えられます。


そうすると、他の相続人も自己の相続分に基づいて不動産を使用収益する権利を有するが、その権利が居住している相続人によって侵害されているのだから、賃料相当額を請求できるのではないか、とも思えます。
しかし、被相続人が死亡する前から同居している場合には、基本的に被相続人の死亡後も遺産分割により不動産の所有者が確定するまでは、被相続人との間で引き続き不動産を無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるため、他の相続人から賃料等を請求することはできないとされています(最三小判平成8年12月17日)。
無償で使用させる旨の合意があったと推認されない場合にはこの限りではないので、例えば被相続人の所有する物件に賃料を支払って居住していたというような場合は賃料を請求できることとなります。他方、家族で同居していたというような場合は無償で使用させる旨の合意があったと推認されるのが通例でしょう。
なお、これは内縁の夫婦の場合にも当て嵌まるとされており、内縁のパートナーが死亡した場合、遺産分割が完了するまではそのパートナーの所有物件に無償で居住し続けることができるとされています(最一小判平成10年2月26日)。


遺産の不動産に居住する相続人がいる場合、まずはその相続人が不動産を相続すること(今後もずっと不動産に居住すること)を希望するかを確認します。
もし希望する場合には、不動産の評価額を算定し、その相続人から他の相続人に対して代償金を支払うように清算します。
他方、希望しない場合には、不動産を任意売却して売却代金を分割するというのが一般的です。この場合、任意売却の手続にあわせて退去してもらうこととなります。

本件では、特に無償で使用させる旨の合意がなかったとはいえなかったため、遺産分割の協議を進め、居住している相続人も特に不動産の相続を希望しなかったことから、最終的に売却処分して他の預金等の遺産とあわせて分割しました。

 


【執筆者】

弁護士 佐瀬達哉

東京と大阪で弁護士として勤務した後、2008年から札幌で葛葉法律事務所を開所。
離婚、相続などの家事事件に関する解決実績多数。
相続では使途不明金や共有不動産に関する訴訟案件などにも対応。

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